今回は、産業用・家庭用ガスや、LPGなどを扱う総合エネルギー企業である岩谷産業の企業分析をしていきたいと思います。
企業概要
岩谷産業は、1945年に創業です。創業者は、岩谷直治氏で彼が創業した「岩谷直治商店」が源流となります。この時点からガスの製造販売を生業にしていました。こちらは1930年創業と、かなり歴史のある企業ということがわかります。
1953年には、日本初のLPG販売を開始、ここから本格的なエネルギー事業に踏み出しました。
そして、最近はニュースで見ないことがないというくらいトレンドである水素についても、岩谷産業は古くから取り組んでいました。水素の国内シェアは4割を占め、宇宙ロケットの液体水素供給や、水素自動車用の水素ステーション設置、水素製造プラントの立ち上げなど、積極的な投資を続けています。
『水素を熟知した会社』を自称するほど、水素に対する知見が深い会社であると言えるでしょう。
事業概要
岩谷産業が展開している事業は、以下の通り大きく5つに分けられます。それぞれを解説していきます。
総合エネルギー事業
こちらの事業は、家庭用・業務用LPガスやLNG、更には電力や都市ガスなど展開しています。売上高を見ると、民生用LPガスが45%を占めており、次にガス供給設備、ガス機器の23%、カセットコンロ、石油関連と様々な事業を行っていますね。
同社LPガスのブランドである「Marui Gas」は国内トップシェアを誇ります。
産業ガス・機械事業
こちらのセグメントでは、ガス設備、特殊ガス、空気分離ガスなどが分類されます。空気分離ガスというのは、空気から酸素・窒素などを分離し、それらを鉄鋼、機械、半導体などの製造に活用されます。
そして、このセグメントの中で前述した水素が含まれます。1941年から水素の製造販売を始め、圧縮水素および液化水素ではなんとシェア100%を誇ります。
また、国内初の商用水素ステーションも建設するなど、カーボンニュートラル時代に備えています。
マテリアル事業
マテリアル事業は、機能樹脂、金属、鉱物資源、電子材料を原料から製品まで幅広く扱っているセグメントです。
PET樹脂や2輪マフラー向け耐熱塗料など、ニッチながらもシェアナンバーワンの取り扱いが複数存在します。
自然産業事業
こちらはエネルギーではなく、冷凍食品の製造販売や、土壌改良植物工場など、大に食品・農業に関わるセグメントです。
私も岩谷産業の冷凍食品を見て驚きました。手広くやっている会社ですね。
業績状況
それでは業績を見てみましょう。2021年3月期の決算を分析します。
売上高は、昨年度に比較して511億円の減収となっています。それぞれのセグメント全てで減収という結果でした。
一方で、営業利益を見ると総合エネルギー事業が33億円の増益となり、トータルでは12億円の増益を果たしています。
収支にインパクトの大きかった総合エネルギー事業にフォーカスしてみましょう。
増益の大きな要因はなんと「市況要因」ということでした。これだけで20億円の利益を押し上げていました。どういうことかというと、LPガスは産油国から輸入していることから日々価格の変動が起こっています。今回はそれが岩谷産業への収支に好影響を及ぼしたということです。
財務状況
貸借対照表
貸借対照表を見ると、自己資本は年々積み上がっており財務的な問題はないとみていいでしょう。ガスの製造を行っていることから有形固定資産が多いこと、また売上債権が多いことも目立ちます。
損益計算書
売上高の推移を見てみると過去五年では横ばい程度と伸び悩んでいます。一方で、営業利益と純利益は僅かながらではありますが、右肩上がりを続けています。
キャッシュフロー計算書
キャッシュフローを見てみると、設備投資を積極的に行いつつも営業キャッシュフローを順調に稼ぎ、フリーキャッシュフローのプラスが続いています。これによって、自己資本比率の改善が図られています。
市況
株価
株価を見てみると、今年一年で39%の上昇となっています。上昇の理由としては、やはり水素ブームが考えられます。
古くから水素の製造に関わっている同社が、今後カーボンニュートラルのキーテクノロジーである水素産業に大きく貢献すると見られているのだと考えられます。
その他指標
時価総額は約3,900億円と大企業です。株価収益率は14倍と平均的、配当利回りも1%と、平均的な数値と言っていいでしょう。投資妙味は少ないかもしれません。
まとめ
いかがでしたでしょうか。エネルギー事業から冷凍食品まで広く事業を手掛けている会社ですが、やはり見どころは水素事業だと思います。
中部圏や関西圏などの協議会にも参画し、水素の導入拡大を推進しています。
富士経済の調査によれば、2030年には水素燃料関連市場は約4,000億円の規模になると見られています。
将来的に水素が広く使われることになるとすれば、岩谷産業の企業価値は更に大きくなることでしょう。