企業分析

【再エネ関連】三菱商事が洋上風力発電事業を総取り!背景や戦略について解説します!

2021年12月、一般海域における洋上風力開発事業の事業者選定のための入札が行われ、3つの海域を三菱商事連合が総取りするという衝撃の結果となりました。

今回は、入札の詳細と三菱商事連合の戦略、今後の動きについて解説していきたいとおもいます。

そもそもなぜ入札?

日本において、一般海域において洋上風力発電所を建設・稼働するためには、「再エネ海域利用法」という法律に基づいて、海域や事業者の選定を行う必要があります。

今回の3海域は国によって、洋上風力の設置に適していると認められた海域となっています。

通常、海域というのは、港湾法や漁業漁場整備法などによって許認可されているのですが、一般海域というのは、それら特定の法令の対象外となる海域であり、そこに洋上風力の設置を進めるために「再エネ海域利用法」が施行されました。

詳しくは下記記事が詳しいのでご参照ください。

https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/feature/15/031400074/032000019/?P=1

3つの海域について

3つの海域についてそれぞれ解説していきます。

秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖

「秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖」では、三菱商事エナジーソリューションズ、三菱商事、シーテックらのコンソーシアムが落札しています。出力1.26万kWのGE製の風車を38基設置する定格出力478.8MWの発電所で、運転開始は2028年12月を予定しています。入札で決まったFIT価格は13.26円/kWhとなっています。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1057A0Q1A810C2000000/

秋田県由利本荘市沖

 「秋田県由利本荘市沖」は、三菱商事エナジーソリューションズ、三菱商事、ウェンティ・ジャパン、シーテックによるコンソーシアムが落札しました。同じくGE製の1.26万kWの風車を機を65基設置し、定格出力は819MW、2030年12月の運転開始を予定しています。FIT価格は11.99円で今回の3海域の中では最も価格が安いです。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1057A0Q1A810C2000000/?unlock=1

同地域では、脱炭素の有望銘柄であるレノバ社が社運を賭けて入札に挑んでいましたが三菱商事連合に敗れる形となりました。恐らく同社は定性点が最も高い「事業者6」だと思われます。

千葉県銚子市沖

 「千葉県銚子市沖」は、三菱商事エナジーソリューションズ、三菱商事、シーテックによるコンソーシアムが落札しました。FITによる買取価格は16.49円/kWh、GE製の1.26万kWの風車を31基設置する定格出力390.6MWの発電所で、2028年9月の運転開始を予定しています。FIT価格は16.49円/kWhと他2地域より高い価格となっています。

三菱商事連合以外の入札は一社だけですが、これは東京電力連合で間違い無いでしょう。

東京電力は銚子沖での風力に関する実証を行うなど、長い時間をかけて地域対応をしてきたのでかなり落胆しているのでは無いでしょうか。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1057A0Q1A810C2000000/?unlock=1

以上を見ると、三菱商事連合は圧倒的な価格差によって落札を決めていることがわかります。

今回の3海域における入札制度の上限価格は29円/kWhとなっていたのですが、結果はその半値以下と凄まじいことになってしまいました。

三菱商事連合の3つの戦略〜圧倒的価格差で入札できた理由

三菱商事連合が3海域を総取りしたのですが、その落札価格は11〜16円と破格の水準となっています。

国内において風力発電は、まだ陸上風力しか存在していませんが、その買取単価は約16円程度です。つまり、今回の落札結果だけ見ると、洋上風力は陸上風力よりも安いというアベコベな状況に見えます。

通常の事業者には到底不可能なこの価格水準を三菱商事連合はどのように実現できたかを分析します。

Enecoの買収

三菱商事は、2020年3月に中部電力と共同でオランダの総合エネルギー企業であるEneco社を買収しました。

https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2020/html/0000039539.html

同社は、欧州にて再生可能エネルギーの開発や電力小売事業を展開しており、洋上風力発電を約180万kW保有しています。

三菱商事は買収により、Enecoがこれまで培ってきた再生可能エネルギー事業の知見・ノウハウを利用できることから、競合他社よりも高い精度でリスク・コスト管理ができたと思われます。

総取り前提でのスケールメリット効果

三菱商事連合は、3海域とも破格の価格で入札しましたがこの理由として、複数海域の「総取り前提」のコスト試算を行っていた可能性が考えられます。

例えば、風車を納入するにも一つ頼むより複数頼む方がまとめ買いということで価格交渉力が増します。普通の買い物にしても、まとめ買いをした方が安い場合がありますよね。今回の件は、工事や資材調達の面において、それと同様のスケールメリット効果を見込んでいたと推測できます。

逆に言えば、一つでも落札を逃してしまえばシナリオが破綻するということであり、確実に落札するために今回の衝撃価格にしたのでしょう。

売電先の確保

3事業とも、Amazon.com、NTTアノードエナジー、キリンホールディングスをはじめとする協力企業と地域共生策を共同実施することで合意が得られているとの発表がありました。

この3社はいずれもエネルギーを大量に消費する事業者であり、脱炭素のトレンドの中で再エネ電源の調達を行っています。一般的に再生可能エネルギーの賦存量は国土の大きさに比例するので、日本の再エネ電気は奪い合いになります。ということは、三菱商事は再エネが喉から手が出るほど欲しい事業者に高い価格で再エネを売ることができるということです。

おそらく三菱商事連合は、洋上風力で発電した電力を彼らにある程度の価格で売ることを約束することでコストを抑えるのでは無いでしょうか。他の事業者には洋上風力発電の設備や運用コストを抑えることに腐心していたと思われますが、三菱商事連合は「電気の使い手」との連携も画策していたことが一枚上手だったと考えられます。

終わりに

三菱商事は、2030年までに脱炭素関連に2兆円投資すると発表しており、再エネ開発にも積極的です。今回の3海域総取りによって、一気に国内の再エネ最大手に上り詰めるという凄まじい勢いです。

前述したように、三菱商事連合は3つの戦略を組み合わせ破格の水準の価格を実現しました。これはつまり、今後の海域においても洋上風力開発のコスト切り詰めでは、三菱商事には絶対に勝てないということになりました。

事業の考え方がガラッと変わってしまうというゲームチェンジが起こってしまったことに他なりません。

一方で、今回の入札に敗れた事業者からは、今回の価格で本当に事業が成立するのかという疑問の声も聞かれます。日本の再エネ開発において、非常に重要な節目であった今回の洋上風力案件、これから具体的な動きとなっていきますので、しっかり注視していきたいとおもいます。

合わせて読みたい

再エネ開発事業者であるレノバは落札を逃したことにより株が大暴落となってしまいました。事業者になれないことはもちろん、思わぬ価格水準の低下により「儲からない事業」と市場から認識されてしまった可能性もあります。